「はたしてGAFAは無敵なのか」ピーター・ティール率いるパランティアテクノロジーズが、シリコンバレーと決別する理由

  • 2020年4月25日
  • 2020年10月13日
  • コラム

 

かつて、レイ・カーツワイルは「AIのみならずテクノロジーの進化スピードが無限大になり、人間の能力が根底から覆り変容するシンギュラリティが、2045年に到来する」といった。

人口知能の世界的権威のこの提言により、シンギュラリティという概念は瞬く間に広がり、AI全盛の時代における世界の在り方について、世間でも盛んに議論されるようになった。

シンギュラリティ後の世界を想像する時、ユートピアを想像するのか、ディストピアを想像するのかは人それぞれだが、概ね似たようなシナリオに帰結する。

それは、GAFAのようなテックジャイアントが神の代理人のように人々を導くという近未来の風景だ。

今日、それなしには生活が成り立たなくなるほど人々の生活に深く浸透しているシリコンバレーのIT企業のサービスの影響力を考えれば、それは当然の事のようにも思えるし、異を唱えようにも彼らの前では人々はあまりに無力のようにも思える。

 

「果たして、本当にそうなのだろうか。」

 

そんなITの巨人達が世界を支配する未来に対して異論を唱える企業がある。

パランティアテクノロジーズ(Palantir Technologies)。2004年、シリコンバレーの伝説の起業家ピーター・ティールにより設立されたこの未上場企業は、ビッグデータ解析プラットフォームの開発・提供をしており、その時価総額は4兆円を超えるとも言われている。

 

ピーターティール
(techinasia.com)

シリコンバレーで最も重要な人物と言われたピーター・ティールの知名度と比較すると、パランティアテクノロジーズの知名度はまだまだ高くはないが、その顧客はFBIや国防総省のような政府系機関から航空会社、製薬会社、保険会社まで多岐に渡り、未上場企業ながら、きたる人口知能時代におけるダークホースとささやかれている。

パランティアテクノロジーズは、膨大なデータを可視化し、一見無意味なデータを統合することで業務を劇的に効率化し、生産性を高める「ダイナミック・オントロジー」という技術において世界最先端と言われており、その技術力の高さに加えて、シリコンバレーでは”異端”な彼らの思想にも注目が集まっている。

今回は、そんなパランティアテクノロジーがシリコンバレーに一石を投じる理由と今後、彼らが世界に与えるインパクトについて紹介したいと思う。

パランティア、それは、すべてを見透かす魔法の水晶

ピーターティール率いるパランティア
palantir.com

社名のパランティアは、トル―キンの指輪物語に登場する“すべてを見透かす魔法の水晶“に由来する。

その名の通り、パランティアテクノロジーズの「ダイナミック・オントロジー」を使えば、そのままでは無意味のように思えるデータも系統的に統合し、短時間で解析する事で、あらゆるオペレーションの業務を大幅に短縮できるという。

パランティアは主に民間向けの「Foundry」と公共向けの「Gotham」の二つのサービスを展開している。いずれも社内外の大量のビッグデータを統合し分析することで、サービスのコスト削減および生産性の向上に寄与する。

オントロジーは元来哲学用語で「存在論」を意味するが、人工知能の分野では「概念化」あるいは「定義づけ」と訳される。

例えば、データベースにある銀行口座に対して、「特定の銀行口座から送金を受けているもの」、「その講座の名義人からメールを」といった概念化を施すことで、マネーロンダリングや犯罪資金の追跡などかかるコストを大幅に削減できる。誰でも扱いやすいインターフェースも特徴だ。

 

gotham(ゴッサム)
gotham(ゴッサム)

 

パランティアテクノロジーズは、これまで欧米の諜報機関や捜査機関にサービスを提供してきており、犯罪捜査の他、2009年に中国を拠点とするサイバースパイネットワーク「ゴーストネット」の調査やテロリストの追跡などに利用されてきた事が知られている。

パランティアの技術は、コロナウィルス対策でも活躍

そんなパランティアテクノロジーズの顧客は、公的機関だけでなく民間にも多岐に渡る。

欧州の大手航空機メーカーのエアバスは、パランティアテクノロジーズのFoundryを用いてデータ分析を行うことで、生産工程を効率化し、年間数十億ユーロ規模のロスカットを達成した。運航記録や整備記録、過去のトラブルといったデータを再分析する事で整備の最適化にも貢献するという。

パランティアテクノロジーズは日本にも進出しており、昨年11月、SOMPOホールディングスとビッグデータ解析プラットフォームを展開するパランティアテクノロジーズジャパンを共同で設立している。

SOMPOは日本国民の膨大な量のビッグデータを保有していながら有効活用する技術がなかったが、今回のパランティアテクノロジーズとの提携により、世界最高峰の技術を持って運用する事が可能になる。

余談にはなるが、言うまでもなくビッグデータの運用は、安全保障の根幹をなす。今回のSOMPOとパランティアの提携により、日本人は、Gゼロ後の世界におけるグレートゲームの最前線にいることを、否が応にも痛感することだろう。

(参考:SOMPO AND PALANTIR LAUNCH “REAL DATA PLATFORM FOR SECURITY, HEALTH, AND WELLBEING”)

パランティアとピーターティール
(cnetj.apan)

また、今月、パランティアテクノロジーズは、米国の疾病予防管理センター(CDC)に向けて、新型コロナウイルスの感染拡大状況や、医療機関の対処状況の把握をするアプリの提供を開始した事が報じられた。

パランティアは、医療機関から受け取るデータを匿名化した上で分析し、使用可能な病床数や人工呼吸器の数を把握する他、感染拡大の予測モデルの提供も開始しており、今回のコロナウィルスのパンデミックに対するビッグデータ活用の可能性が期待されている。

(参考:SOMPO・米パランティア、医療・金融のDX支援

シリコンバレーに警鐘をならす、パランティアの二人の思想家

パランティアのアレックスカープ
(LA times)

そんなパランティアテクノロジーズは、シリコンバレーの他のIT企業とは全く違った存在だと自称するように、その逆説的な思想がたびたび話題となる。

パランティアテクノロジーズのCEOアレックス・カープは、ハーバードロースクールに在学中にティールと出会って以来の旧友であり、共に哲学を専攻していた二人は、喧々諤々の議論を通じて交友を深めた。カープは、後にフランクフルト学派のユルゲン・ハーバーマスに師事し、哲学の博士号を取得している。

フランクフルト学派を継承するカープは、Bloombergへのインタビューにて、独特な独特な言い回しで、シリコンバレーの問題を指摘する。

 

 
パランティアCEOアレックス・カープ

「私達は、シリコンバレーでは物議を醸す、不人気な存在です。それは、私達が他のシリコンバレーの企業とは全く違った展望を持っているからです。

 

シリコンバレーのIT企業は、イノベーションは起こしますが、雇用を創出しません。シリコンバレーでは、一人のPhDを持つ人間のために1500人の雇用が失われるといった事が起きており、社会の分断の原因となっています。

 

私達が最も注力するのは、イノベーションと雇用を同時に創出することであり、現在、クライスラーでは1500人、エアバスでは5000人のオペレーターが私達のソフトを使っています。雇用の創出なしに民主主義はなりたたないからです。」

アレックス・カープ

かつて、シリコンバレーで最も重要な人物と言われたピーター・ティールも、近年は、シリコンバレーに対して辛辣だ(ティールがシリコンバレーのオフィスを引き払いLAに引っ越したのは2年前のことになる)。

2016年の大統領選において、シリコンバレーのIT企業の重鎮たちが一致団結して反トランプを公言する中、ティールが界隈でトランプ公言を支持したほぼ唯一の人物であった事は広く知られているが、近ごろは、シリコンバレーの独善的な文化や、過度なリベラルへの偏りを公然と批判しており、「シリコンバレーは、ブレークスルーとなるイノベーションを生むのに極度に狭量になっている。」とまで言う。

 
DealBook Conferenceに登壇するピーター・ティール

何故、パランティアテクノロジーズの二人の思想家はシリコンバレーのIT業界に対してこのような批判的な立場をとるのだろう。

ひとつ象徴的な事例がある。

昨年12月、米国防総省は、パランティアテクノロジーとの間で、陸軍のデータベース統合に関する1億1081万ドルの1年契約を結んだと発表した。このプロジェクトは、戦争を助長すると言うGoogleの社員の猛反対により見合わせとなった米国政府のプロジェクトであり、物議を醸す事となった。

社員の“良心“により、Googleが入札を辞退したプロジェクトを受託したパランティアテクノロジーズに対して、各メディアは民主主義の仇敵のように扱うことになったのだが、そんな批判に対してカープは、Bloombergへのインタビューでこんな回答をしている。

「私は、現在と未来において、法の支配を守り続けるためには、AIをコントロールする事が重要です。

 

その意味では、アメリカ政府をサポートしないという決断はあまりにも過激な決断です。グーグルやシリコンバレーの他に企業は、アメリカが何者で、どのような役割をはたすべきかを自分達で勝手に決めていますが、これらは合衆国の司法や有権者によって決められるべきであると信じています。

他の多くの地域と社会規範やモラルを共有しないシリコンバレーの一部の人間たちによって決められるべきものではなりません。」

アレックス・カープ

カープの主張は、他の大部分の社会とモラルや規範を共有しない、一握りのシリコンバレーのIT業界が、善悪や社会の規範や人々の生活の在り方までもを独善的に決めつける事に対する人々の疑念を代弁しているのかも知れない。

法治国家において、国防総省の下した決断を「社内で物議を醸したから」という理由で拒絶する事は、果たして正義なのだろうか。

私達は、日々、Googleが”良質”とするメディアを優先的に目にし、Facebookが”最適”だとした広告をもとに行動する。

そして、GAFAのようなテックジャイアントが政府よりも大きな力を持ち、AIやビッグデータを管理して、彼らが責任を持って人々をより良い未来に導くといったシナリオを、半ば当然のこととして受け入れ、自身の個人情報を差し出してきた。

一方で、シリコンバレーのリーダーたちも、自分達の影響力の増加に伴い、公共セクターとしての役割も自負するようになる。

世界中の情報を体系化するというミッションを掲げるGoogleのCEOサンダー・ピチャイは、かつて開発者向けカンファレンス「Google I/O」にて、利用者の行動を把握し完全に視覚化する事を明言したが、特定の大企業が主導するAIの未来に対して懸念を抱く人々に対して「何も心配しなくてよい。我々が世界をよくするから。」と付け加えている。

より最適化されていく巨人達のサービスと耳触りの良いリベラリズムの文句は、彼らの自負心と相まって、人々に楽観的な未来を想像させるのに十分な説得力を持っていた。

単にオススメのレストランを選ぶだけでなく、人々の社会規範や善悪までもをシリコンバレーのテックジャイアントが判断し、世界中の人々を導くというシナリオは、盤石なもののように思われてきた。

しかし、ここ数年、そんなシリコンバレーの描く青写真に陰を落とすような事件が続いている。

AIやビッグデータをコントロールするのは誰であるべきか

2018年のFacebook がケンブリッジ・アナリティカに対して個人データを提供し不正に利用されていた一件は、その中でも象徴的な事件だったと言えるだろう。

Facebookは、8700万人もの個人データが不正に利用されていた事に対して、5400億円の制裁金を支払ったが、その後もフェイクニュースや大衆扇動を目的とした広告の氾濫や、個人情報の政治利用は止まる事はなく、「我々はニュースではない」という半ば責任逃れともとられかねない釈明に終始した。

そんなFacebookが公共インフラとしての役割を果そうとする事に対して、人々の疑念はますます深まっていく。

公聴会に呼び出されて、当たり障りのない答弁しかできない、かつての時代の寵児マーク・ザッカ―バーグに対する人々の目は厳しく、相応の社会的責任を果たせないまま巨大化した無責任なベンチャー起業家として、党派を超えて非難された。

このような社会との不協和は、フェイスブックに限った事ではない。昨年、「グーグルは中国で人工知能(AI)を開発して中国政府のスパイ活動に協力をしており、FBIやCIA)は調査をするべきだ」というティールの指摘に対して、トランプ大統領がTwitter上で呼応。

司法長官にGoogle調査求める旨の発言を行うと、カーター元国防長官も「グーグルは自国の防衛に協力をしないという大きな間違いを犯した」と同調した。

GoogleのCEOは「そうした提携の一部からは一部手を引いた」と回答しているが、米中の対立が激化していく中で、Googleの社員たちの“良心“も”Don’t be evil”の標語もますます日和見的になっていく。

伝説の起業家ピーター・ティールが私たちに問いかけること

「データを扱う企業に対する人々の懸念は非常によく分かります。データを扱う企業は、綿密かつ正確に規制されなければなりません。

 

データの管理と運用に関しては、透明性が求められ、しっかりと監視されなければなりませんが、重要なのは誰が監視するかという事です。

 

私は、これらの問題は、開かれた議論によって社会によって審議されるべきであると信じています。私を含め、多くの国民は、一部のシリコンバレーのIT業界の人間が審議する事に対して不快感を持っているのです。」

アレックス・カープ

もはや、誰もが知るようにビッグデータや人々のプライバシーを扱う事に伴う責任は、単にレストランや着る服を選んであげるといった些細なものではなく、安全保障や民主主義における基本的価値にまで及ぶが、その役割を担うと目されてきたシリコンバレーの巨人達は、この件に関しては、思われていたほど順風満帆とはいかないようだ。

かつてのシリコンバレーでは、リベラルお決まりの綺麗事とグローバリゼーションが疑いようのない正義だったが、昨年の米中貿易摩擦の激化やBrexitといった地政学的変化に加えて、今回のコロナ渦により、いよいよ各国の本音が剥き出しとなってくると、彼らの”正義”もますます曖昧で頼りないものになってくる。

カープの指摘するように、Googleが国防総省の決定を査定し、Facebookがフェイクニュースや人権侵害を審判するという筋書きに対する人々の不快感は、シリコンバレーのリーダーたちの語る理想が抱える根本的な矛盾に由来するものなのかも知れない。

AIやデータをどう管理するかは自分達が決め、正義の名の下に人々を導くと自負するシリコンバレーのリーダーたちとは対照的に、パランティアテクノロジーズの二人の思想家は、AIをどうコントロールするかは広く民衆によって決められるべきだと主張する。

 

無論、彼らの主張の中のポジショントークは差し引いて考える必要がある。今日、シリコンバレーを代替し得るような都市は存在しないし、GAFAのようなテックジャイアントがこのまま衰退するとも思えない。むしろ、パランティアが監視社会の象徴として歴史に名を残す可能性すらある。

しかし、思い返してみてほしい。

ピーター・ティールは、しばし逆張りの投資家、反逆の起業家と称されるように、その逆説的な思想をもって世界を作ってきた。

1996年、まだ何者でもなかったティールは「The Diversity Myth」を上梓。当時、世界を覆っていた楽観的な多文化主義の矛盾を鋭く指摘し、若手実業家として一躍時の人となった(世界が当時のティールの指摘の本当の意味に気づくには20年程の歳月を要することになるのだが、、、)。ティールのその後の功績はもはや説明不要であろう。

今もティールは、採用面接で必ず「賛成する人がほとんどいない、大切な真実はなんだろう?」と聞く。

あまりにも有名な問いかけだが、これはティールが「新鮮さと違和感を持ってあらためて世界をみることで、世界を作り直し、今とは違うより良い未来を創る力が、誰しもに備わっている」と信じているからだという。

今後もAIが進化し続け、いつかシンギュラリティを迎える日が来るとして、パランティアの二人の思想家の問いかけは、あなたの創造する未来にどのような示唆を与えるのだろう。

 

 

 

参考

パランティアのプライバシーと自由に関する方針

米データ企業「パランティア」がIPO申請、日本のSOMPOも出資

(文・デカルトサーチ合同会社パートナー飯倉光彦)

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