みなさんは、フレンチテックについてご存知でしょうか。
2013年にフランス政府主導で始動したフレンチテックは、起業家と投資家、アクセラレーター、公的機関などが一体となってスタートアップのエコシステムを創造するという目的のもとに作られた国家的プロジェクトです。フレンチテック以前のフランスでは、スタートアップの文化は希薄であり、国家規模でスタートアップを育むエコシステムも整備されていませんでした。
しかし、若きリーダーたちにより主導されたこの政策は、短期間で目覚ましい成果を上げており、2018年の世界最大の家電見本市CESのスタートアップ特設スペースには、フランスから全体の約3分の1を占める274社が出展し、大きな存在感を示しました。
2020年現在、フランスでは11社のユニコーン企業が生まれており、フランス政府は、今後3年間で50億ユーロをスタートアップに投資する計画と共に、2025年までにフランス国内でのユニコーンを25社に増やす目標を掲げています。
何故、短期間のうちにフランスは世界有数のスタートアップ大国として生まれ変わることが出来たのでしょうか?今回はフレンチテックジャパンの共同代表のフレッドさんにフレンチテックの成功の要因や日本での活動について語って頂きました。
フランス生まれ。ゲーム開発者として任天堂やモバイルプラットフォームにて従事した後、フランスのスタートアップにプロジェクトマネージャーとして参画。
2011年に来日し、スマホゲームパブリッシャーの3rdKindを設立。これまで50以上のタイトルを配信。
世界各国に設立されたアクセラレーション拠点
-フレンチテックジャパンではどのような活動をしていますか?
フランス政府は、フランス国外の世界86カ所にアクセラレーション拠点としてフレンチテック・ハブを設置しています。ジャパンオフィスもその一つであり、フランスの起業家の日本展開を支援するとともに、日本のスタートアップ企業のフランス進出を支援しています。
例えば、フランスの起業家で日本のマーケットに興味を持っている人は数多くいますが、文化やビジネスの進め方が違うため、いざ来日しても、マーケットリサーチやパートナー探しに無駄な時間を浪費してしまうケースが散見されます。そのような場合に、在日経験の長い私達が情報提供をしたり、ビジネスパートナーとなり得る日本の企業を紹介したりしているのです。フランスに進出したい日本の企業に対しても同様のサポートをしており、フランス大使館、Business France、CCIFJやJETRO、経済産業省などとも連携しているため、日仏両国の架け橋となるようなコミュニティだと言えます。
-フレンチテックによりフランスはどのように変わりましたか?
先日帰国した際、パリのカフェなどでは、起業家精神を持った若い人たちが盛んに自分のビジネスについて語り合っていましたが、10年前ではそのような光景はあまり見られなかったものです。フレンチテック以前にフランスにスタートアップの文化がなかったわけではありませんが、フレンチテックにより明らかに活発化しました。
フレンチテック以前にはフランスのユニコーン企業はゼロでしたが、2019年の時点で11社にまで増えています。代表的なユニコーン企業として、相乗りしたい人をマッチングするBlablacar、プロのカメラマン向けマーケットプレースのMeero、ゲームパブリッシャー会社Voodoo、音楽配信サービスのDeezerなどがあります。
フレンチテックは官民一体の国家的プロジェクト
-何故フレンチテックの改革は成功したのですか?
フレンチテック以前のフランスでは、スタートアップの文化はそこまで活発ではなく、経済にも閉塞感があったことに加えて、優秀な若者の海外流出も社会問題となっていました。そのため、フランス政府や国民の中で、ベンチャーやスタートアップを育てていき経済を変えなければならないという危機感あり、大統領就任前のエマニュエル・マクロンやフルール・ペルランといった若きリーダーたちは、フランスをスタートアップ大国にするというビジョンを掲げ、フレンチテックを強力に推進しました。官民が上手く団結できたことが成功の要因のひとつだと思います。
一般的に、政府がベンチャーやスタートアップを理解するのは難しいと言われていますが、フランス政府は、スタートアップを支援するための様々な努力を行ってきました。象徴的なのがフレンチテックラベルの制度です。フランス政府は、国内のスタートアップがフレンチテックのラベルを自由に使えるようにしたことでブランディングや認知度拡大を促進しました。
–フレンチテックにより創設されたスタートアップハブのStationFやBPIフランスについて教えてください。
フレンチテック以前のフランスには起業家はそれぞれバラバラに散在しており、スタートアップを育むための環境も十分に整備されていませんでした。そこでフランス政府は、スタートアップをサポートするエコシステムを創造するために必要なすべてを集積した場所としてStationFを作ったのです。StationFは、パリの廃屋となっていた貨物駅舎を改修した巨大なキャンパスで、スタートアップ起業家を約3000人収容できます。起業家、公的機関、投資家、アクセラレーターの他、GAFAのようなテックジャイアントのオフィスを招致しています。
また従来、複数存在していた中小企業支援のための機関を一元管理すべくBPIフランス(公的投資銀行)もフレンチテックより2年前設立されました。BPIフランスは、スタートアップの全ステージにおいて、融資、保証、出資、ファンド管理といったサービスを提供しています。
–日本のスタートアップやテック業界についてどう思いますか?
変化の兆しはあるとはいえ、はじめから海外で戦うことを前提にしているスタートアップはまだまだ少ないように思います。今までは日本のマーケットが大きかったのでよかったかも知れませんが、今後は、より海外に出ていく必要性が高まっていきます。
また、ハードウェアに関しては、日本は世界トップだと思いますが、ソフトウェアに関しては正直遅れているのでキャッチアップが必要だと思います。日本の強さは、動き出すのには時間がかかるものの、いざ動き出したら一致団結してスピーディーに高品質なものを作れるところにあります。その意味では、海外展開やIT分野で遅れていても、今からでも全然キャッチアップできると期待しています。そのためには、スタートアップが日本国内だけでなく、世界を巻き込むビジョンを持つ事が重要になってくると思います。
-最後に日本の読者にメッセージをお願い致します。
フレンチテックジャパンでは、アクセラレーションの一環として、日本語でスタートアップ向けの月例イベントを開催しています。フランスやEUの市場を見据えている企業の方やフラレンチテックについて生の情報を知りたいという方は、是非、一度、お気軽にお問合せ下さい。
注目のフランスのユニコーン企業
車の所有者が、同じ行先の相乗り相手を見つけられるサービス。行先と日時の他、同乗者と会話をしたいか、喫煙の可否、ペット同乗の可否といった項目が設けられており、条件の合う相手とマッチングする仕組み。
【deezer】
日本にも展開している音楽ストリーミングサービス。HiFI音質の音源を1470円で無制限で利用可能。
【meero】
プロカメラマン向けのマーケットプレイス。膨大な画像データを保有しており、機械学習による画像編集機能も搭載している。
【Voodoo】
基本プレイ無料のスマホアプリを手掛けるゲームパブリッシャー。2019年12月のVoodooゲームのダウンロード数は26億、月間アクティブユーザーは3億人、個人プレーヤーは10億人に上った。